Web Exercise紹介

慶應義塾大学経済学部 境 一三

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ここでは,慶應大学日吉キャンパスで稼動しているオンライン外国語学習システムWeb Exerciseとは何かを説明しています。途中にはリンクが張ってあり,実際の問題を見て使っていただけるようになっています。(東北学院大学AVセンターに感謝します。)

なおこの文章は,慶應義塾大学語学視聴覚教育研究室で発行している『らぼ通信』Nr.77のために書かれた原稿をHTML化し,若干の修正を加えたものです。


目次

CALLソフトのさまざまな形態
Webベースの教材のメリット
Web Exerciseの特徴
ドリルの形式と作成の実際


慶應大学日吉キャンパスでは,語学視聴覚教育研究室を中心としたさまざまなプロジェクトで新たな外国語教育の可能性の模索を行なっていますが,その柱の一つにComputer Assisted Language Learning (CALL)の研究と実践があります。先に紹介した334番教室は,この一連の研究の中で実践の場として設計・構築されたものですが,CALL授業の実践のためのソフトウェアとしてまず初めに導入されたものが,これから紹介するWeb Exerciseです。

CALLソフトのさまざまな形態 トップに戻る

CALL研究の中で,近年とみに盛んになっているものにWeb(ホームページ)ベースの教材開発があります。しばらく前までは,CALLの教材というとstand alone環境の,つまりコンピューターネットワークを前提としていない環境での単体アプリケーションが主でした。特にMacintoshに付属していたHyperCardというソフトで開発された語学教材は,1984年のMacintosh発売以来膨大な数が作られ,優れた教材も枚挙にいとまがありません。しかし,このHyperCardで作られた教材は,WindowsUNIXといった異なるOperating System (OS)の上では動かないものでした。また,教室に仮に50台のコンピューターがあったとすると,その11台にソフトをインストールしなければならないので,教材の改訂を行なったときなどは新たにインストールをし直さなければならず,非常に手間と時間がかかるという欠点がありました。

Webベースの教材のメリット トップに戻る

Webベースの教材の特徴は,これまでの単体アプリケーションと異なり,教材の提示と練習問題の解答をすべてWebのブラウザー上で行なうので,コンピューターの機種にもOSにも依存しないという点,また教材のデータはすべてサーバーコンピューターに格納されていて,学習者はそれをWebブラウザーから呼び出して使うので,学習者(クライアント)のコンピューターにはWebブラウザーさえインストールされていれば,あとは何も要らないという点です。OSに依存しないということは,WindowsであれMacintoshであれ,またUNIXであれ,大学や家庭にあるどのコンピューターからも問題に取り組めるということを意味しています。さらに,教材を載せたサーバーがインターネットにつながっていれば,大学の中だけでなく,家庭からもアクセスできるわけです。また後に述べた特徴は,アプリケーションソフトを使用するコンピューター1台づつに入れなければ使えない,という不便さからの解放を意味しています。

このような利点のために,Webを利用した教材はどんどんその数を増していますが,私たちの導入したWeb Exerciseは,まさにこうした教材を作成するための核になるもの,すなわちエンジン部分なのです。

 

図1 Web Exercise入り口のページ
(教員ごとに教材が作られるので,それぞれの入り口がある。)

 

Web Exerciseの特徴 トップに戻る

Web Exerciseは東北学院大学でドイツ語を担当されている佐伯啓先生が児島ソフトウェア研究室の児島伸明さんと共に,WebObjectsというNeXT Computer社(現Apple社)の技術を使って,外国語学習に特化させて開発されたシステムです。佐伯先生はHyperCard教材の開発者でもありましたが,上に述べたような単体アプリケーションの限界を感じて,Webベースの教材に移行されたのでした。筆者はドイツ語情報処理研究会で佐伯先生の知己を得てその考えに共鳴し,実際にその有効性を見た上で,Web Exerciseを日吉キャンパスへ導入することに決めました。

それでは,具体的にWeb Exerciseでは何ができるのでしょうか。その名前にExerciseという言葉が入っているのでわかるように,基本的には練習問題を作り,それを学生に提供するシステムですが,単にドリルができるだけでなく,ホームページを作る言語であるHTMLに則って書けば,教科書の単元のようなものや文法解説も加えることができますし,また別の窓に表示したテクストと組み合わせて学生が練習問題に取り組むこともできます。更に静止画・動画・音声ファイルをリンクさせることもできますから,ディクテーション問題も簡単に作ることができます。注:このリンクは,東北学院大学AVセンターのサーバーにつながっています。DEMOという先生のアイコンをクリックし,次のページの「了解」を押すと,二つのアイコンが現れますので,左側の「member」をクリックすると中に入ることができます。さらに,「自習」を選んで,表示された画面左上のアイコンをクリックすると,いろいろな問題を見ることができます。ここには音声や画像の付いた問題があります。文字コードはUTF8で,アクサンやウムラウトの他スペイン語の記号や中国語も問題なく日本語と混在できますので,マルチリングアルな問題を作成することが可能です。

さて,このシステムには,「自習」,「CAI」,「テスト」という3つのモードがあります。「自習」では学生は好きな問題を選んで解答でき,解答の結果はボタンのクリック一つで見ることができますし,間違った問題だけを繰り返し解答することもできますが,学習経過や成績は記録されず,プレッシャーのかからない状態で勉強できます。「CAI」と「テスト」では学生に問題の選択権はなく,教員が指定した問題を教員の監督下で行なうことを前提にしています。解答時間や正誤の記録が残ります。両者の違いは,「テスト」では学生は解答の送信を1回しかできないということです。また,受験者の成績一覧が自動で生成されますので,教員はそのデータをCSV形式で保存すればExelで集計することも簡単にできます。その他,「CAI」と「テスト」の両モードで誤答の記録が頻度付きで残りますので,問題の適不適,学習者の理解度の分析に役立ちます。

 

図2 解答情報

 

 

 

図3 誤答情報

 

 

4 成績一覧

 

このようにさまざまなメリットのあるWeb Exerciseですが,しかしなんと言っても最大の利点は,教員にとって問題が作りやすいということでしょう。通常教員はワープロを使って練習問題や小テストを作りますが,このシステムではまったく同じ手間でWeb問題ができてしまうのです。しかも採点は自動で,集計までしてくれますから,教師の負担を軽減してくれます。コンピューターを導入しても,問題作りが今までより手がかかるのでは,多くの先生に使ってもらえず,従って学生へのメリットもありません。昨年日吉でCALLについて講演をされた大阪大学の細谷行輝先生が言われたように,「教員にはワープロ以上のことを求めてはいけない」とすれば,Web Exerciseはもっとも外国語担当教員に適したソフト環境だと言えましょう。

 

図5 実際の問題作成画面

 

 

ドリルの形式と作成の実際 トップに戻る

では,実際にどのようなドリルができるのでしょう。問題のパタンは,大きく分けて,並び替え,選択,穴埋めの3つですが,1つの問題の中にこれらのパタンを組み合わせることができます。

教員が問題を書きこむのは図5のようなWebのページで,ここに1問につき2行づつ(問題の種類によっては1行)記述をすればできあがります。Web上で簡単に記述できますから,教員は大学でも自宅でも,好きな場所で問題作成ができるわけです。もちろん,Wordなどのワープロソフトで作っておいて,それをそのままコピーアンドペーストすることもできます。その際,アクサンやウムラウトなどもそのまま生かされ,英語以外の問題を作るときも文字の問題に悩まされることはありません。

例として次のように書くとします。

$デモ1
作成可能な問題のパターン例1です。
What time is it now?
今、何時ですか?
(What*How*When) time is it now?
今、何時ですか?
What (time) is it now?
今、何時ですか?

 

すると,表示は次のようになります。

 

図6 問題表示例

 

最初の2行「$デモ1/作成可能な問題のパターン例1です。」は問題群のタイトルと指示に当てられ,実際の問題は次の「What time is it now?/今、何時ですか? 」のような21組で記述されます。

並び替え問題

さて,単語の並び替え問題を作るには

What time is it now? (原文)
今、何時ですか? (問題文)

のようにただ原文を書くだけでOKです。すると画面上の表示は"(is time it now What )?"となり,学習者は解答欄に正しい語順で単語を書き入れます。

選択問題

選択問題は次のように記述します。

(What*When*How) time is it now? (原文)
今、何時ですか? (問題文)

正解を左端に書き,選択肢を*で区切るだけです。学習者には毎回異なった順番で表示され,繰り返し学習する際にも「場所で覚える」ということがないように配慮されています。選択肢は図6に示したように,ラジオボタン形式で与えられます。

穴埋め問題

穴埋め問題にはいくつかヴァリエーションがありますが,基本的な記述は以下の通りです。

What (time) is it now? (原文)
今、何時ですか? (問題文)

表示は図6でご覧の通りです。単語1つの場合はこれで良いのですが,複数の単語を正しい順番で入れさせたいこともあります。その時には次のように書きます。

What (/time is it) now? (原文)
今、何時ですか? (問題文)

すると 解答者には "What (__________) now?" の様に表示され、"time is it" 全体が正解になります。また,

I saw her (/stand/ing) there. (原文)
私はそこに彼女が立っているのを見た. (問題文)

と書くと,"I saw her (stand___) there."と表示されて,語尾の穴埋め問題ができます。

ご紹介すべきことはまだまだあるのですが,紙幅が尽きてしまいました。とにかく一度実際の画面をご覧になって,問題を試していただくのが一番だと思います。是非上のリンクからDEMOに入ってみてください。

外国語学習のすべてをこのような練習問題に任せることはできませんが,しかし文法練習などはこのシステムを使って授業時間外に自習させ,授業中はオーラルの練習など,教員がいなければならない練習に集中させたいというのが,私たちの考えです。

 

7 筆者のクラスで使われている問題の一部