東京外国語大学欧米第一課程ドイツ語専攻
「コンピューターとドイツ語学習研究」(ヨーロッパ言語研究T演習)
担当: 境 一三


「どいちゅはんぐまん」
--学生の感想に対する岩崎先生のコメント--
(2001年7月6日)


広島大学の岩崎先生がお作りになった単語練習ソフト「どいちゅはんぐまん」を授業参加者に使ってもらい,そこで考えたことをメールしてもらいました。それを岩崎先生に読んでいただき,コメントをいただきましたので,掲示します。岩崎先生に感謝いたします。


<ヒントと出題語彙の分類>

 多くの学生さんから「ヒントが欲しかった」という指摘を受けました。もともとハングマンという単語ゲームは、たとえば体に関する単語とか国の名前とか、あるいは、また「先週の授業で扱った単語」などというように出題される単語の領域が定まっていることを前提にして、しかもクラス全体で行う単語推理ゲームです。また学習目的としても、新しい単語を覚える場合ではなく、いったん学習した単語の定着をはかる局面で行うものです。したがって、すでに何らかの形で学習しているのが前提ですし、クラス全体でやるときはそれぞれの人がいろんな角度や発想で推理するので、行き詰まることは少なく、ふつうヒントは不要だと思います。

 ただ、今回は、多くの学生さんが「ヒントが単語の大まかな分類のみだったのでまったくあてられなかった」と指摘してくださったように、ソフトの中で、形容詞とか名詞というような大まかな分類しかしていなかったので、ヒントなしにやるのは苦しかったと思います。これは、直接には単語の吟味もあまりしないまま作りかけの教材をそのまま放ったらかしている私の怠惰が一番の問題です。

 ただそれだけでもないような気がします。、私はこれまで、単語の分類をきちんとしておけば、原則としてヒントは必要ないと考えていました。ただ、今回、いろいろな指摘を受け、あらためて考えたのですが、「教師が対象者を見ながら出題をコントロールでき、しかもクラス全員でやるゲーム」の枠組みを「学習者のレベルをあらかじめ想定できるわけでない自立型学習を前提にしたオンライン学習ソフト」に利用するのであれば、単語群を語彙レベルや語場などを基準に精密に分類し学習者に合わせた明示的なメニューを出す必要性がいっそう増しただけでなく、行き詰まったときのためのヒント等をつける必要性も新たに出てきたのかもしれません。(なお、ヒントの出し方としては、たとえば、外れの数がある一定の回数を越えるとヒントボタンが使えるようにするなどの方法が考えられます。)

 

<正解が複数あること>

 ハングマンがおもしろいのは、ある程度単語の長さがあるときです。短いものに関しては、推理より偶然に依存する比率が高くなります。その意味で、短い単語が多い、頻出形容詞などは出題単語として向かないかもしれませんし、複数の単語が該当する確率もあがります。しかし、私は、正解が複数ありえるというのは、それほど悪いことだとは思いません。ただし、その条件に合ってはいるけど、はずれた場合は、「惜しい。それも合うけど、でも違うんだよね。」いうようなリアクションも必要かなとは思います(ただしこれを実現するのは技術的に難しい)。

 

<カスタマイズ>

 実は、スタンドアローン版では、最初のメニュー項目の中の「その他」を選ぶと、このソフトと同じディレクトリ上に置かれたmdata.txtという名のファイルを外部テキストとして自動的に読み込んで出題してくれるカスタマイズ機能をすでに持っています。自分が授業でちょっと使うときには、必要に応じてこのmdata.txtの内容を差し替えて使っていました。そのため、本格的に作りなおす必要を自分の場合あまり感じていなかったことが、ああやって、他の項目で適当な単語を放り込んだまま3年もほっておいた原因の一つです。 ただしオンライン版では、ファイル読み込み機能が働かず、読み込めなかったときにあらかじめデフォルトとして用意してあるデータが出ています。当時はオンライン版でのデータの読み込み方の技法がわからなかったのですが、最近、東京で行われたDirecotrのセミナーで、www上から、テキストファイルを読み込む方法を教えてもらいました。今年中には、デザインを一新し、登録データを分野別に分けて増やすと共に、そうしたオンライン版でのカスタマイズ機能もつけ加え他心バージョンを作ろうと思います。

 

<競争>

 ある学生さんが、競争してやるとおもしろいと書いておられましたが、先にも書いたように、ハングマンそのものがもともとそういうゲームですので、クラス全体でやったり、2人で一緒にやるとおもしろいです。2年ほど前ですが、外部ファイルの読み込み機能を利用して5人ほどのグループを作らせ、グループ対抗でお互いに問題を出し合わせたことがあります。

 

<単語の音節の構造を意識化させる>

 同じく、何人かの学生さんが、スペルの再確認とか、動詞特有の語末の形について、あるいはまたある文字の後に来ることのできる文字には制限があることなどについても触れておられましたが、ハングマンの学習効果の一つは、単に覚えている単語を全体として思い出すことだけではなく、文字当てという偶然的な要素を含んだ推理を通して、ドイツ語の音節のなかの子音や母音の並び方の規則性に対する言語意識(昨年のゼミでRüschoff氏が言っていたSprachbewusstsein)を研ぎすますことができるという点です。

 

<首つりが残虐>

 死刑廃止論との関係で首つりが残虐だという指摘がありました。この種のゲームの場合には、何らかの破局的状況へ少しづつ近づいていくような絵が出せればいいわけで、気球の空気が抜けて鮫の海にだんだん落ちていくなどのバリエーションや、崖から落ちかかって、ザイル一本でつながっているようなケースなどもありますね。ただこれも考えようによっては同じくらい残虐かな。ほかに、指摘していただいたような積み木崩しや、綱引き・ボクシングのようなよりソフトな状況設定もあり得ます。学習者が、小学生などの場合には、本気でそうした配慮が必要でしょう。

 

<マルチメディア>

 単語の定着と言うことを真剣に考えるなら、当てるだけでなく、正解後に音声や絵を出したり、例文の音声を聞けるようにしたりなど、マルチモダールな工夫が必要ですね。こちらの方は素材を作るのが、大変なので、なかなか進みませんが・・。